白雪リンの読書感想文(カミュ「異邦人」その3)

(「その2」へ戻る)

マジマジョ 白雪リン(演:隅谷百花(現おはガール))の偽物


犯行に及んだ当時、彼は砂浜で因縁の相手を見つけます。そして彼は、お互いが近づけば持っている匕首やピストルで、致命的な事態が引き起こされることを自覚しています。
このとき彼は、回れ右してトラブルを避けることもできましたが、そうすれば太陽に焼かれた砂浜にまた引き返さなければならないと、敢えて因縁の相手へと向かっていくのです。結局彼の予想したとおり相手は匕首を抜き、それに対し彼は相手をピストルで撃ち殺すのです。

彼が引き返さずに相手の元へと向かっていったのは太陽のせい。その暑さがなければ、きっと彼は相手に近付くことなく引き返していたでしょう。
彼が引き金を引く引き金となったのは、間違いなく太陽のせいなのです。

しかし何度読んでもわからなかったのは、1発で撃ち殺したはずの相手に、動かなくなった後も追加で4発撃ち込んでいることです。結果としてこの行動が、後の検事による死刑の求刑に一役買うことになります。
万一の反撃を恐れて?それともピストルを軽くしたかったから?この部分はムルソー自身の心理描写がなく、まさにミステリーです。

ところで、彼が根っからの凶悪犯ではなく、また自らの殺人について理解ができないサイコパスのような類でないことがわかる描写があります。
それは彼にとって感じが悪くなさそうに見えた、予審判事に手を差し伸べようとする場面です。このとき彼は、『自分がひと殺しをしたことを思い出した』と、結局握手を差し控えるのです。自分の汚れた手を他人に触れさせまいとする、彼がむしろ律儀で礼儀正しい人間に見えてきます。

また弁護士の前で、彼の母親に対する想いを話す場面があります。私はこの場面で、彼を誠実な人間であると感じました。
『私は深くママンを愛していたが、しかし、それは何ものも意味していない。健康なひとは誰でも、多少とも、愛する者の死を期待するものだ。』と彼は弁護士に話します。しかし弁護士は、そうしたことは法廷その他で口にするなと約束させます。それはそうでしょう。そうした発言は、確実に法廷で不利になるでしょうからね。
でもこの彼の言葉は、私にも大いに共感するところがあります。社会的に大きな問題となっている介護問題、それが原因で殺人事件も起きています。決してキレイごとだけでは済まされない問題です。
また身近でそうした介護の場面を見てきて、1秒足りともその死を期待しないような人がいるとは到底思えません。ただ他人の目があるのでそうはっきりと口に出せまんし、同時にそう期待した自分の倫理観を恥ずわけですが。

同じ場面で、また彼が我々同様に普通の人間であると感じられる、人間臭い描写もあります。
『私は自分が世間のひとと同じだということ、絶対に世間の尋常なひとたちと同じだということを、彼に強調したいと願った。』とあります。これは彼の切なる叫びだと感じました。彼は自分を繕うことができないだけで、我々と同じ普通の人間でしょう。

さて、これまで3回に渡ってカミュの「異邦人」について書いてきましたが、次回で終盤の考察をして締めたいと思います。

(「その4」へ続く)

2件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。